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【ウェディングストーリー】音楽で紡ぐ笑顔

投稿日:2017年1月9日 更新日:

音楽活動を通して、仲を深めていった新郎新婦。
新婦であるナナコさんは結婚式の中で「歌うことだけは外せない」。とのこと。
しかし披露宴は、「2人が楽しければいい」というものではありません。
そこでウェディングプランナーが出した提案とは……?

 

……耳が心地いい。
この快感を、ぜひ、ゲストの皆様にも、届けたいと思った。

6月半ば。
駅から10分ほど歩くそのカフェ。

あぜ編みのグレーカーディガンを脱いで、白い前後差ヘムでアクセントを効かせた、ハリ感のある白のフレアトップスとタックをほどこし、ウエストからヒップにかけてゆったりとしたボリューム感をプラスしたテーパードパンツというスタイルで、足を踏み入れる。

さすがに、カーディガンは暑い。

テーブルから、壁から、木の温もりが伝わってくる。
樹木を改造して、このカフェを建てたのか、とまで美川に思わせるには、十分だった。
ウェディングプランナーの美川華恋(よしかわかれん)は、そこを訪れていた。
美川が担当するカップルの打ち合わせの際、良かったら来てくれと、美川を誘ってくれたのだった。

デイビッドさんという外国人のオーナーが温かく見守ってくれるなか、ライブが行われる。
そのステージの中心には、優しい歌声をお客様に届けるナナコさんと、ギターをまるで身体の一部であるかのように、自在に操るオサムさんの姿があった。
美川は、オーダーしたアイスコーヒーの存在なんてすっかり忘れるくらい、歌の世界に入り込んでいた。

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ナナコさんの歌声は、この世の邪念のすべてを優しく包み込んでくれるような、優しい、澄んだものだった。
歌に関しては素人だが、このまま、路上ライブなどを続けて、誰かの目に留まり、「気鋭のシンガーソングライター」としてデビューくらいできるのでは、とも思ってしまうほどであった。

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ライブが終わると、美川は式場へと車を走らせる。
2人と最初に打ち合わせをした頃を、思い出しながら。

2人が来たのは、挙式をするカップルが莫大に増える6月の初旬だった。
何でも、5月の31日に入籍を済ませたばかりだという。
少しでも、明確に『結婚式』をイメージしたくて、ここに足を運んだという。
式場やドレスの案内をしながら、「どんな式にしたいか」を聞いた。
2人の希望は、「とにかく、皆が笑顔で過ごせる温かい式にしたい」ということだった。
この2人らしい式にするには、どうしたらいいか……。
必死に考えても浮かばず、何かヒントになればと、2人の歌を聞きに行くことにしたのだ。

「やっぱり、私の歌を聞いたことがない人もいると思うし、歌うことだけは外せない」

打ち合わせの途中に言った言葉が、ずっと美川の胸に引っかかっていた。
2人は、音楽活動を通して、仲を深めていったらしい。
それだったらこのカップルには、歌を披露してもらう機会を必ず作らなければならない。

しかし披露宴は、「2人が楽しければいい」というものではない。新郎新婦が、親族や友人たちに新しい人生を歩んでいく決意を表明する場であるのだ。そしてそれを、ゲストが祝福する時間なのである。
演奏会のようになってしまっては、本末転倒なのだ。
そのことは、新米である美川にも、よく分かっていた。

しかし、2回目の打ち合わせのとき、開口一番に、美川は、ナナコさんとオサムさんに、ある提案をしていた。
「通常、新婦さまがお世話になったご両親に手紙を読むという演出を、ナナコさんご自身の歌に変えてはいかがでしょうか。
雰囲気を壊さず、親族にも、ゲストの皆様にも、ナナコさんのお気持ちが伝わると思います」。

そう言って美川は、あのカフェに置いてあった『First Gift』というCDを2人の前に差し出した。
これが、2人が一から制作したCDなのだ。美川は、カフェに足を運んだあの日、買っていたのだった。
もっと2人のことを知るために。
「これからも一緒に思い出を素敵な家族の元に産まれて
私はとても幸せだからまた生まれ変わっても2人の娘になりたい」
という歌詞がとても美川の心の奥まで沁み渡ったのだ。

「美川さん、わざわざ、足を運んでくれましたものね。
お客様として聞いて下さった方がそういうのなら、そんな場を、提供して下さるのなら、精一杯、歌わせて頂きます!」
満面の笑みで、ナナコさんは、頷いてくれた。
必ず、最高の式にしてみせる。それが、責務なのだから。

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式当日は、見事な快晴で、2人の新しい門出を祝福してくれているような天気だった。
ウェルカムボードと一緒に例のCDを置き、お店さながらに視聴できるスペースも作った。
2人の曲が流れるなか、ゲストの会話も2人が紡ぐ「音楽」のことで自然と盛り上がっていた。
式は順調に進み、いよいよ最後のプログラムだ。
会場の証明が一瞬で暗転し、スポットライトには、新郎新婦、そしてそれぞれのご両親が照らされた。
新郎はタキシード姿で両手にアコースティックギターを持ち、新婦のナナコさんはスタンドマイクを強く握りしめている。

「本来、ここでは手紙を読むべきなのでしょうが、私は、あえて歌で、今までお世話になった両親に、気持ちを伝えようと思います。
私が、両親への気持ちを歌詞に込めて、音もつけた曲です。
『生まれ変わっても』聴いてください」。

会場が、優しい歌声で包まれていく。両親だけではなく、ゲストの人も何人か、涙腺を刺激されていた。
その式の帰り、出席者のゲストたちのほとんどが会場入口にあったCDを買っていったようである。この演出は、思わぬ効果を生んだようだった。

 

 

美川は今、ようやく後輩が出来る立場となった。
彼女は思う。
高校・大学と演劇に打ち込んで、「よりリアルな描写や台詞・演出」を求めて、知らないことを知ろうとして、休日も演劇の資料となるものを集めに、時には関係者に飛び込み取材に行ったこともある経験が今、活きているのだ、と。
体験したことだからこそ、説得力が増す。「体験」から考えたプランは、より、人の心に響くのだ。このことを忘れずに、「好奇心と行動力」と武器にして。

今日も美川は次のお客様を迎える。

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