二人で一緒に見た花火大会が懐かしい・・・・・・。
ウェディングプランナーになってから、花火大会に行くことを諦めていた石田さん。
そんな石田さんが結婚式を挙げることに。
そこで同期のウェディングプランナーがサプライズを仕掛けて・・・・・・。
素敵な物語があなたを待っています。
「スタンバイOK?」
「新郎からのサプライズプロポーズ、もうすぐで始まります」。
「今からふたりをガーデンへ誘導します」。
「いつでも点火できるようにしてください」。
式場スタッフの間で、インカム越しに慌ただしく会話が飛び交う。そんな会話からほんの数分後……。
ヒュルヒュルヒュルヒュルっと音を立てて夜空にいくつかの玉が昇ると、パンパンパンパン!と大輪が咲いた。これが、新人の頃から同じウェディングプランナーとして共に頑張ってきた石田さんと見る、最初で最後の打ち上げ花火。私は、この光景を一生忘れない……。
「花火大会行きたいなぁー。夏、大好きなのになぁー」。
毎年夏になると、石田さんは決まってこう言った。でも私たちは、世間の休みに忙しくなるウェディングプランナーだ。この仕事に就いてから、私は花火大会に一度も行けたことがない。それは石田さんも同じだった。
「実は、花火大会だったんだよね。今度結婚する彼との初めてのデート」。
残業でふたりとも遅くまで残っていたある日の夜、石田さんがポツリと呟いた。その日は、地域で有名な花火大会が行われていた日だった。FacebookやInstagramのタイムラインに流れ込んでくる楽しそうな花火大会の様子を見ながら、彼との昔のデートを思い出したのか、石田さんは懐かしそうに目を細めていた。
「でもさぁ……。私たちこの仕事大好きだから、しょうがないか!」
そう言ってパッと明るい笑顔を見せると、石田さんはまた元の仕事を再開させた。
石田さんは、私にとってかけがえのない存在だ。同じタイミングでウェデングプランナーの仕事を始め、石田さんがいたおかげで、仕事がまったくできなかった新人時代も前向きに乗り越えることができた。
そんな石田さんが、今度結婚する。相手は大学時代から交際を続けてきた彼で、彼の転勤をきっかけに結婚に踏み切ったそうだ。
自分の結婚式をプロデュースすることが夢だと話していた石田さんは、何の迷いもなく職場の結婚式場で結婚式を挙げることを決めた。式の日取りが決まってからは、毎晩遅くまで残り、自らの式の準備に励んでいた。
私も打ち合わせには同席していたので、手作りアイテムなど、手伝えそうなことは他のスタッフにも声をかけて手伝ってきた。石田さんが毎日遅くまで式の準備に励んでいたことを知っていた新郎は、自身が休みの日には職場に足を運び、一緒に遅くまで残って準備に取り組んでいた。
「石田さんの彼、すごく優しいって噂になってるよ」。
そう伝えると、石田さんは「えー、そうかなぁー」と照れ臭そうに笑っていた。
そして石田さんは、自分の結婚式を最後に今の職場を辞め、彼の転勤先へと引っ越していく。
仕事でうまくいかなかった時、夜遅くまで残って話を聞いてくれた石田さん。新郎新婦から感謝の言葉をいただいたとき、自分のことのように一緒に喜んでくれた石田さん。結婚式をお手伝いするときには、目で合図を送れば何を言いたいかお互いに分かるほど信頼し合えていて、周りのスタッフからは「ふたりはいつも息ぴったりだね!」なんて羨ましがられるほどの仲になった。
今、私がウェディングプランナーという仕事にやりがいを持って働けているのに、石田さんの存在なしでは語れない。
だから、石田さんが結婚式の後に会社を辞めてしまうことに寂しさを感じられずにはいられなかった。でもそれ以上に、感謝の気持ちの方が大きかった。だから、石田さんが今まで新郎新婦にしてきたように、石田さんにとっても最高の結婚式を実現させ、最後は笑顔で送り出そうと私は心に決めていた。
私の務めている結婚式場はスタッフ同士の仲がよく、それぞれの担当しているお客様がどんな方か、またより良い結婚式にするためにはどうしたら良いか、自分の担当でなくとも一緒にアイデアを出し合い、頻繁にミーティングを繰り返していた。時には終電ギリギリまで話し合いが長引くなんてこともあったが、それだけ、ウェディングの仕事が大好きな仲間が集まっていた。
だから石田さんの結婚式が決まった時も、“大切な仲間の結婚式を必ず成功させよう!”と今まで以上にスタッフ全員張り切ったことは言うまでもない。みんなからの祝福の気持ちとして、何かサプライズができないかと話し合っていた時、
「花火大会行きたいなぁー。夏、大好きなのになぁー」。
「実は、花火大会だったんだよね。今度結婚する彼との初めてのデート」。
石田さんがいつか呟いていたこの言葉を思い出した私はみんなにそれを伝え、結婚式当日、サプライズで花火の演出をプレゼントすることを決めた。
「それ、絶対嬉しいよ! 喜んでくれるよ!」
「石田さん、泣いちゃうかもよ!」
石田さんへのサプライズが決まった瞬間、私たちスタッフはワクワクした気持ちを抑えることで必死だった。石田さんと彼にとって“思い出の花火大会”をプレゼントすることが私たちからの最後のプレゼント。石田さんにバレないように全員で協力し、細心の注意を払ってサプライズの準備を進めてきた。
実は準備を進めていくなかで、タイミング良く新郎からの相談も持ちかけられていた。 “きちんとしたプロポーズをしていないので、披露宴の中でプロポーズしたい”というもので、花火の演出と相性バッチリの内容だ。迷うことなく私たちのサプライズ演出を伝え、花火と同時にプロポーズを行う計画が進められた。
そして結婚式当日。花火の演出は、披露パーティの後半に行うことが決まっていた。
そしていよいよそのとき。
石田さんの大好きなMr.Childrenの曲が流れる中、会場からつながっているガーデンへ新郎が石田さんをエスコートする。そして曲が止み、会場中の視線がふたりに注がれる中、新郎からのプロポーズが決行された。
「僕に一生ついてきてください」。
その言葉が聞こえた瞬間、
ヒュルヒュルヒュル……パンパンパンパン!
再度曲が流れ、私たちが準備していたサプライズの花火が一気に打ち上げられた。
あまりに突然の出来事に石田さんは一瞬戸惑ったようにも見えたが、すべてを理解した後、新郎のプロポーズにふり絞ったような声で「はい」と答え、ボロボロ泣いて、そして、嬉しそうだった。会場中が歓喜の声と祝福の拍手に包まれていく。
その後も、音楽に合わせて打ち上げ花火が次々と夜空に花を咲かせていく。
「最後は笑顔で送り出そう」。
そう決めていたのに。石田さんの涙と花火を見たら、今までの石田さんとの思い出が一気に蘇り、私も溢れ出る涙を止めることができなかった。
司会者から花火の演出が新郎と私たちスタッフからのプレゼントですと伝えると、石田さんはさらに驚き、「感激です」とまた泣きながら、顔をくしゃくしゃにして喜んでくれた。
「こんなにも喜んでくれて本当によかった」。
サプライズを仕掛けたスタッフ全員、感謝を伝えられた喜びで胸がいっぱいだった。
新郎の横に立って幸せそうな笑顔を浮かべる石田さんを見つめていた時、ふと石田さんがこちらを向いて視線があった。特に何かを言うわけでもなかったが、石田さんは泣きながら、笑顔を見せて頷いてくれた。きっと今回も、私の気持ちを石田さんが感じてくれたんだろう。
「これからは一緒に働くことはできないけど、今まで一緒に働けたことが最高の思い出です。石田さん、今までありがとう!」
最高の仲間と最高の結婚式をつくることができたあの夜の幸せを、私は一生忘れることがないだろう。
石田さんは引っ越し先でも、またウェディングプランナーの仕事を続けるそうだ。私も、いつまでも寂しんではいられない。今度石田さんに会ったときに恥ずかしくないように、気合いを入れて頑張らなくては。
そして石田さんの結婚式を終えた今、改めて自信を持って言えることがある。
「ウェディングプランナーって、本当に最高!」
~完~