「家族全員が主役であってほしい」
新郎新婦がそろって口にした結婚式への要望。
なぜ、そこまで“家族”という言葉を強調するのでしょうか。
そこには深い理由が隠されていました・・・・・・。
ふと見上げれば桜の花びらが舞う、またそんな季節がやってきたのだ。
思い返せば二年前、私がとある新郎新婦にお会いしたのもこんな春の日のことだった。
彼らとの出会いはまだプランナーとして新人だった私に信念のようなものを教えてくれた、
そんな出会いだった。
「こんにちは」
ある晴れた日、そう言いながらドアを開け入ってきたのは優しそうな男性と彼の手をしっかりと握りしめた可愛らしい女性だった。
彼が彼女のために椅子を引いてあげたり、逆に彼女が彼の上着を受け取ってたたんであげたり、言葉にしなくても、お互いのことを理解し支えあっている、そんな素敵なカップルだった。
新郎、新婦ともに30歳。高校時代の同級生で同窓会をきっかけに付き合いだしたという。
自己紹介も済ませ、互いの緊張が解けたところで本題に入る。
「どのような式にしたいなどの具体的なご希望はございますか?」
「……僕たちだけではなく、家族全員が幸せな気持ちになるような、そんな式にしたいんです。とにかく家族全員が主役であってほしいと思っています」。
「私も……家族全員が、絆のようなものが感じられる式になれば、と思っています」。
二人の口から最初に出たのはそんな希望の言葉だった。
“家族全員が主役”“絆”この言葉がキーワードだ。
しかしなぜ「全員」を強調したのか……
それは新郎新婦から聞いた二人の家庭環境に隠されていた。
新郎は幼いころに父親を亡くし、お母さまが女手一つで新郎とお兄さんを育ててきた。
しかし数年前、お母さまが病に倒れ、しばらくはお兄さんと二人で、その後は新郎新婦と新郎のお母さまとが同居して新婦がお母様さまのサポートをしているのだという。
新郎のお母さまは新婦を自分の本当の娘のように可愛がっていて、病気になる前から一緒に三人で旅行に行ったりするほど大変仲が良いと新郎から教えてもらった。
同居をするようになって約5年。新郎新婦がお互いを理解しあっている雰囲気はそんな積み重ねからもきていたのだろう。
また新婦の方はというと、幼いころに両親が離婚し、父親に引き取られた。その数年後に父親が再婚。
思春期だったということもあり、素直に“新しい母親”を受け入れられなかった新婦は会話をすることも少なく、今まで大きなけんかもなければ、とくに楽しい時間を共有することもなく、お互いにギクシャクした関係が続いているという。
そんな新郎新婦が望んでいるのは、自分たちのこの結婚式を機に家族全員が心の距離を縮めることだった。
―――「家族の絆」「絆を深める」、そんな素晴らしい結婚式を私がプランニングできるだろうか……
―――いや! やってみせる!!――――
しかし打ち合わせはなかなか簡単には進まなかった。介護職に就いている新郎がとても忙しくて、電話をしてもほとんど繋がらないのだ。もちろんご来店して頂くこともできない。新郎とは全てメールで連絡をとりあう。新郎がストレスを感じないように、メールの文章も読みやすく、端的に、でも温かい文章で……。
そんな新郎からの返信メールには、いつも新婦への感謝のオモイが詰まっていた。自分の母親の世話を嫌な顔一つせず、長年サポートしてくれている彼女にはとても感謝しているということ。そして結婚式でそれを伝えたいということ。
―――伝えてもらおうと思った。
―――サプライズとして。
新婦に関してはやはり父親の再婚相手の“新しい母親”との関係が鍵になっているようだった。
新婦はお母さまに感謝している。
「本当は……もっと親子の会話をしたいんです」
いつかの打合せの最中に新婦がポツリをつぶやいたのを覚えている。新婦は思っていることを素直に伝えることが苦手なタイプらしい。しかしお母さまへの今の気持ちを伝えることができるのは新婦本人だけだ。
プランナーとして、一歩踏み出すチャンスは今だ!ということを根気強く伝える。
何度も何度も伝える。
今考えると家庭の事情に踏み込み過ぎてしまったと思わないでもない……でも、家族の絆が深まり、皆に祝福されて喜ぶ新郎新婦の姿が見たかったのだ。
新婦は勇気を出してお母さまにベールダウンを頼んでくれた。
ベールダウンという儀式は新婦の母親が花嫁である娘のベールをおろす、それは娘の為の最後の身支度を意味しているといわれている。母と娘が互いのオモイ感じ合う最高の瞬間だ。
「お母さん、頼んだらすごく嬉しそうにオッケーしてくれたんです」。新婦は照れくさそうな笑顔で私に教えてくれた。
時間を見つけて何度も来店しプランを組み立てていく私たち。
一つ計画が決まってまた一つ笑顔が増えていく。
そして迎えた結婚式の当日。
挙式は新婦の母からのベールダウンから始まる。
「幸せになってね」。
「ありがとう……お母さん」。
ベールダウンの時に目を合わせ微笑みあった新婦と新婦母。また一つ家族の絆が生まれた瞬間だった。
披露宴もまた、家族への感謝のオモイが溢れていた。
新郎から新郎母への手紙。
新婦から両親への手紙。
会場には新郎の家族、新婦の家族の名前の一字を使って製作された詩が飾られていた。
そして最後にサプライズとなる新郎から新婦への手紙。
いつもは優しくも照れ屋な彼からの「ありがとう」「愛してる」の気持ちが詰まった彼女への手紙。
「これからは家族として共に歩んでいこう」。
最後に撮った集合写真には全員が幸せそうな笑顔で写っていた。
新郎新婦、ご家族、そしてプランナーの“オモイ”が素晴らしい結婚式を作り出すのだ。
そんな皆さんのオモイを感じられた安堵と嬉しさからだろうか、涙がこぼれた。
プランナーになって一年目だった。全部が最初からうまくいったわけじゃない。
予算と希望が合わなかったり、満足してもらえるような提案が浮かばなかったり。
実力不足と言ってしまえばそれまでだ。
向いていないのかもしれないと悩んだこともあった。先輩に泣きついたこともあった。
それでも結婚式での新郎新婦、親族の笑顔を見ることができればそんなも辛さも吹っ飛ぶのだ。
自分を信頼してくれた二人が満面の笑みで「ありがとう」と言ってくれる。
新郎新婦の親族が「素晴らしい式だったよ」と伝えてくれる。
出席した小さな女の子が「私も将来あんな綺麗なお嫁さんになるの!!」と話してくれる。
こんなに嬉しいことがほかにあるだろうか。
こんなに幸せな気持ちを経験できる仕事が他にあるだろうか。
私のプランナーとしての信念、それは新郎新婦の二人、そしてご列席者全員が笑顔になることだ。
それを確信できたのがこの二人の結婚式だった。
今日も私は新しい一歩を踏み出すカップルをお迎えする。
そしてお越しいただいたお二人にこう告げるのだ。
「こんな結婚式にしたい!という希望はすべて私に教えてくださいね。お二人と私とで力を合わせて、絶対に最高の結婚式にしましょう」。
「私が、全力でお二人のプランナーを担当させて頂きます。」