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【ウェディングストーリー】沈黙の3秒間に隠された秘密

投稿日:2017年1月6日 更新日:

結婚25周年を迎えたウェディングプランナー千尋の両親。
実は、プロポーズをされていないという母の言葉を聞き・・・・・・千尋が考えた「銀婚式」とは?
長年連れ添った夫婦ならではのやりとりが、とても素敵です。

 

千尋、23歳。かつてないほどに張り切っている。

この4月で結婚25周年目の「銀婚式」を迎える両親のために、娘として、そしてウェディングプランナーとして何か思い出に残るセレモニーを企画したいと、半年前から密かにアイデアを練っていた。

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千尋が計画したセレモニーは、節目を迎えた夫婦が行う『バウリニューアル』。

仰々しいものにするつもりはなく、両親と妹の4人家族だけでささやかな儀式を行う予定だ。場所は家のリビング。ちょっとだけ豪華なケーキとご馳走を準備したら、家族水入らずで、美味しい料理を楽しむだけで十分だと思っていた。

ただし千尋が絶対に譲れないもの、それはバウリニューアルをしっかりと実現すること。

バウリニューアルの儀式にこだわるのには、ちゃんとした理由があった。ウェディングプランナーとして働き始めてちょうど一年が過ぎた頃、ふと千尋は自分の親の夫婦としての馴れ初めが気になった。

沢山のカップルが夫婦となる瞬間を見てきたからこそ、一番身近に存在する夫婦が誕生した瞬間に興味を抱いたのだ。そこで母・優美に何気なく聞いてみたところ、返ってきた返事はなんと

「お母さん、プロポーズされてないんだよね」

というものだった。

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「えーーーー!?」

その言葉を聞いた時、千尋は愕然とした。両親は、結婚25周年目となっても今だに一緒にスーパーに買い物に行く、娘から見ても仲の良いお似合い夫婦だと思っていた。そんな両親が、プロポーズなく結婚していたなんて!

優美によると、父・悟の急な転勤が決まり、離れたくない一心でドタバタと結婚が決まっていったとのこと。でもお調子者の悟のことだ。きっと、プロポーズも照れ臭くてうやむやにしたのだろう。そんな話を聞いてから、千尋はウェディングプランナーとして両親のために出来る事がないか、常に頭の中で考えていた。

問題は、父・悟からどうやってプロポーズと誓いの言葉を引き出すかだった。

悟はいい歳になってもあまのじゃくな所があるから、ストレートにお願いしても「えへへっ」とか言って笑ってごまかすに違いない。そこで千尋は、悟の職場に宛てて一通の手紙を書くことにした。悟にだって、真剣に考える時間が必要だと思ったのだ。家族の前でいつもおちゃらけている手前、悟自身もそれ以外の振る舞いの仕方が分からなくなっているかもしれない。

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千尋は手紙の中に、なるべくシンプルに、伝えたい事だけを綴った。バウリニューアルとは夫婦の誓いを新しく立てるセレモニーであること、お母さんが(プロポーズなかったんだよね……)と少し寂しそうに呟いたこと、女性にとってプロポーズは憧れの一つであること、そしてできれば、バウリニューアルで改めてお母さんにプロポーズしてほしいこと。

ポストに投函した後は、手紙の内容が父・悟の胸に響くことを、ただただ願うだけだった……。

そして迎えたバウリニューアル当日。

家のリビングでのセレモニーにも関わらず、美容室でヘアセットをしてきた優美は、少し緊張している様子だ。ピンと背筋をのばして悟の登場を待つ姿は、恋人を待つ10代の女の子とさほど変わらないようにも見える。

千尋はあらかじめ、「式の段取りはお父さんに任せてほしい!」と悟からお願いされていた。それではウェディングプランナーとしての見せ所がないじゃないか!と少し不満に思ったものの、悟からお願い事をされたことは人生で数えるほどしか記憶にない。手紙の件もあるし、悟なりに何か考えていることに希望を託し、ここは娘として従うことにした。

ほどなくして、二階から悟が降りてくる足音が聞こえた。リビングに入ってきた悟は緑のチェックシャツにジーンズというセレモニーとは思えないほどカジュアルな格好だ。

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一抹の不安が千尋の頭によぎった瞬間!
悟は背中に隠し持っていた一輪のバラを優美に手渡した。

驚きで息を呑む妻と娘たちの様子はお構いなしで、「う、うんっ」と一度咳払いをすると、一歩下がってシャツの胸ポケットから几帳面に折り畳まれた紙を取り出して広げると、何の前置きも無くこう続けた。

「お母さん、25年間、娘たちを立派に育ててくれてありがとう。

いつもへらへらしている僕に文句も言わず、ついてきて、支えてくれてありがとう。

僕たちは25年間、夫婦と親をそれなりにやってこれたと思います。

娘たちも社会人になり、子育ても一段落ついたよね。

だからこれからは、僕はあなたをお母さんではなく、優美と呼ぶことにします。

だから僕のことも、25年前のあの頃のように、悟くんって、呼んでください。

これからまた、いっぱいデートをしましょう。

これからまた、二人の思い出を増やしていきましょう。

25年たっても知らなかったお互いの新しい魅力を、

これから時間をかけて見つけていきましょう。

25年間毎日、変わらずに君を好きでい続けたとは言えないけれど、

25年前よりも断然、今の優美のことが好きだと言えます。

25年前も今も、優美の存在が、僕の生き甲斐です。

だから僕はこの先も一生をかけて、優美を幸せにすることを追求していきます。

だからこれからも変わらず、僕のそばで笑っていてください。

許してもらえるか分からないけど、僕からの25年越しのプロポーズ、受け取ってください」。

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手紙の朗読を終えた後、3秒くらいのわずかな沈黙が続いた。

そんな空気を一変させたのは、「あー、お父さんお腹すいちゃった!」といういつもの調子に戻った悟の声だった。

千尋は後半、涙で悟と優美の顔が見えなかったから、二人がどんな顔をしてこのバウリニューアルの瞬間を過ごしていたのか分からない。

「冷めないうちに食べなくちゃね。ご馳走なんだから、もったいないもったいない!」

いつのまにか優美も普段の優美に戻っている。

あれ、お母さんからの誓いの言葉は? 勝手にセレモニーを終わらせないでよ! ……千尋はそう言いたい気持ちをぐっと抑えて、胸に閉まっておくことにした。

あの手紙で、二人の絆が深まったのは明らかだ。
もしかしたら、沈黙の3秒の間に、言葉ではない会話のやりとりが夫婦の中であったのかもしれない。そうだとしたら、あの3秒間は、ふたりにとって一生忘れられない3秒間となったのだ。それで、十分じゃないか。思い描いたようなバウリニューアルにはならなかったけれど、ウェディングプランナーとして多くのカップルに接している千尋だからこそ、二人の中に生まれた新しい章の確かな始まりを感じた。

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今度新しいカップルが相談にきたら、誓いの“手紙”をお互いに読み合う挙式について話してみるのも面白いかもしれない。

千尋はそんなことを思いながら、「お母さんが好きだからここのにして」と悟からリクエストを受けた、優美大好物の苺のショートケーキを口いっぱいに頬張った。

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