車いすに乗っていると、着たい!と思ったウェディングドレスがダメだったり、目や耳が不自由だと、結婚式のプログラムを心から楽しめなかったり。
障害が原因で、結婚や結婚式に対し、憧れは持っていても、なかなか実現できないということがあります。
筋肉が弱っていく病気を患い、車いすに乗る村田さん。右目は失明、左目は鉛筆の芯ほどの視野が残る松田さん。小さい頃に交通事故で右足を切断し、義足を履いている澤畠さん。膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)という皮膚の疾患を抱える久慈さん。
女性身体障害者の目線から、結婚式への思いや心配事を聞いてみました。
結婚したい!でもちょっと気になる障害者ならではの心配事。
座談会形式で始めた4人へのインタビュー。最初の話題は「結婚したい?」というオーソドックスな問いかけから。「結婚したい!結婚式挙げたい!」と4人全員が答えるものの、それぞれが抱える心配事が明らかになりました。
村田さん:結婚したいですね!即答です。ただ、結婚はしたいけど、進行性の病気を持っているから、相手に何かしらの迷惑をかけてしまうかもと引け目を感じていて不安。積極的にはなれないですね。
松田さん:できれば結婚したいと思います。視力がいつどういう状態になるか誰にもわからないので、不安は凄く感じますが、せっかく女性に生まれたので、綺麗なウェディングドレスを着て、結婚式を挙げたいという希望が強くあります。
澤畠さん:できたら結婚したい!義足を履いていますが、かなりアクティブなので、ちょっとした段差とか平気。ただ、靴が履けるものが限られたり、履けていたものが履けなくなったりするので、ドレスに合った靴が履けるかなあ。
久慈さん:自分の想像では幸せな家庭を築いている将来があるんですけど、今、結婚できるかなって思ったら、色々な不安がありますね。結婚したいけど状態が悪くなったらどうしよう…とか、相手に迷惑をかけちゃうんじゃないかとかって心配ですね。相手がある話なので。
自身の障害が理由となって、相手や相手の家族に迷惑をかけないか。自身の症状が進行したときに相手の負担にならないか。障害者が結婚に一歩踏み出せない事情がそこにはあります。
車いすだとドレス着れるの?和装はできるの?
結婚式を挙げるにしても、ドレスや靴など身につけるものに対して、障害が原因で希望が叶わないという現実があります。先ほどの澤畠さんの義足と靴の関係が一例です。
車いすに乗る村田さんの場合、服を着替えるにしても時間がかかります。ドレスや和装であればもっと時間がかかるはず。そもそも車いすだと着れるかどうかという問題も浮かび上がります。
村田さん:成人式のときに着ていた振袖。病気になる前だったから着れたんだけど、あれを生かしたい。今の状態だとサポートしてもらってなんとか着れるかどうか。車いすに座ったままだとお腹が苦しいってなるかなあ。
澤畠さん:着物をリメイクしてもらうしかないね。最近よくある2部式とか。
村田さん:お色直しで和装できたらいいなあ。
目が不自由な松田さんの場合だと、お色直しで、美しいとか素敵とか、そんな感想が周囲から上がっていたとしても、伝わらずじまいになってしまいます。結婚式で視覚に頼った演出をなかなか楽しむことができません。例えば、自分がお色直しをして再登場したならば、どんな演出が必要なのでしょうか。
松田さん:「おさわりタイム」がないと楽しめないんだよね。
他の3人:おさわりタイム?!その表現にびっくり!
松田さん:ドレスを触ってもらって、楽しんでもらう。何も見えず、座ったままボーッとするより、情景を具体的にイメージしてもらえるかなと思う。私の場合、友人にも目が不自由なひとが多いから、その全員が触れるためには、あまり広い会場だと難しいかな。
身につけるものひとつとっても、障害の理由によって悩むところ、つまずくところは様々。障害の有無に関わらず、結婚式を挙げるにあたって考えることはたくさんありますが、障害があると議題が増え、あきらめざるを得ないこともあるのです。
準備期間の長い結婚式までの時間。当日にコンディションを合わせられるか。
体調やストレス、気候などによって症状が変わる場合があります。皮膚の疾患を抱える久慈さんもそのひとり。結婚式まで3ヶ月の準備期間があったとしたら、その準備期間中に皮膚のコンディションが悪くならないか不安を抱えながら当日を迎えます。
久慈さん:結婚式をやるまでの期間に対する不安はあって、打ち合わせをするとか衣装を選ぶとか、何度か足を運ばなきゃいけない。せっかくだからエステとか美容院とかにも行きたい。そうすると、式本番までに疲れてしまって、皮膚が悪化しちゃうかもしれない。
新婦が主役ということを考えると、式当日までに自分磨きをしたいところ。ただ、その負荷が自分の体に返ってきて、状態が悪化するならば、それは何とも言えない気持ちになってしまいます。
障害者自身も自分の障害以外の困りごと、心配事はなかなか知らない。
この記事だけでは書ききれないほど、障害が原因で起こりうる結婚や結婚式へのハードルはたくさんあります。座談会でもたくさんの“あるあるネタ”が飛び交いました。しかし、障害者自身、自分の障害については詳しかったとしても、他の障害に関しては知らない、分からないということは多分にあります。
村田さん: 足が不自由な人のことは考えたことがあったけれど、目が不自由な人や耳が不自由な人が、同じように楽しめるようになるにはどうしたらいいのか。すごく難しいなと改めて思いました。
澤畠さん: 私も足のことをメインに考えていたので、他の人の意見を聞くと、知らなかったことに気が付いて、みんなが楽しいと思える式にするにはどうすればいいのかなって未だに考えています。
松田さん: 障害者の場合、友人に多種多様な障害を持っている方がいらっしゃる可能性があるので、どこに焦点をおいて式を進めるのか、すごく迷うし悩むのではないかと思います。みんなに同じように楽しんでもらうために配慮を考えるってなかなか難しいですね。
久慈さん: 祝福されるっていうことは、おもてなしをして、みんなで楽しまなきゃいけないということに今日、気が付きました。自分は耐えられるかな。他のことが見えていなかったです。
人生で一番祝福される時間。それが結婚式です。障害のある人が結婚式を心から幸せだと思えるように、バリアフリーという言葉があるように、結婚式の裏側に隠れるバリアを取り除いていくことが求められているのではないでしょうか。
※【障害者】の表記に関して、下記の2つの理由から漢字表記とさせていただきます。
・法律上の表記はすべて「障害者」となっている
・視覚障害の方などが利用されるテキストの音声読み上げソフトが「障がい者」という平仮名表記を正しく読み上げることができないことがある