10組のカップルがいたら、10通りの結婚式があるといいます。ドレスや会場、装飾やお料理、映像など、「自分たちらしさ」の表現の方法はたくさんあります。
今回、ご紹介するのは、結婚式準備が楽しくてしょうがない新婦様と準備には全く協力しない、という新郎様の「二人らしい」結婚式のエピソードです。
結婚準備は、新婦の趣味
今回の主人公は、19歳の新郎様と19歳の新婦様、という同い年カップル。
高校時代から付き合っていて、早く結婚したかった、という新婦様は、結婚式の準備も前のめりでした。打ち合わせは、基本新郎様も同席はされますが、新婦様とプランナーの私、ふたりだけで進みます。
あるお打ち合わせ中、たまたま覗き見えてしまった新郎様の携帯画面は、なんと、ゲームの真っ最中。その時初めて、新郎様の趣味は「ゲーム」で、新婦様の趣味は「結婚式の準備」だと伺いました。
この若い新郎新婦様のバランスは、始終この通りで変わることはなく、このまま当日を迎えます。
にぎやかな結婚式当日
結婚式当日、新郎様は、全く変わった様子もなく落ち着いて見えました。緊張しないのか尋ねたところ、「余裕。」とのこと。本当にマイペースな新郎様です。一方の新婦様にとって、今日は夢にまで見ていた結婚式当日です。
朝からとってもハイテンションで、終始ご機嫌でした。
予算の都合上、手作りアイテムが多くなることを打ち合わせ中は随分気にされていた新婦様でしたが、当日の会場は、新婦様が手作りしたピンクのウェルカムボードやピンクのリングピロー、カラフルな席次表や席札などで溢れており、新婦様色に染まっている様でした。
ゲストの皆様もお二人の同級生の方が大半で、“結婚式に出席するのは初めて!”という方もたくさんいて、通常以上に賑やかな結婚式になりました。
新郎謝辞
ご友人のスピーチや余興などが続き、最後に新郎様の謝辞です。最後まで、「挨拶はしたくない。」とおっしゃっていましたが、当日は自らマイクを取られ、次のように話し始めました。
今日は俺らのために集まってくれて、本当にありがとうございます。
結婚式の準備は全部◯◯(新婦様)がやりました。あ、あと◯◯のお母さんも手伝ってくれました。正直、俺、今日まで何もしませんでした。
結婚式も、◯◯が「絶対やりたい!」って言ってたから、お金のことでケンカもしたけどやることにしました。
予想通り、念のため事前にお渡ししておいた“謝辞の例文”とは、全く違う内容から始まったこの謝辞を、新郎様はこれから先どのように話をされるのだろうか、と、ヒヤヒヤしながら聞いていました。
しかし、新郎様の表情が、結婚式準備の時とも、朝、声をかけた時とも、全く違うことに、プランナーの私は気づいていました。
今日も正直、始めは、あんまり自分の結婚式って実感がなくて。すみません。
けど、途中から、いろんな人たちがおめでとうって言ってくれたり、よかったねーって、お祝いしてくれたりして……
それで、◯◯(新婦様)のお父さんや、お母さんやばぁちゃんが、泣いてるのを見たら……そしたら……なんていうか……
ここまで一気に話をして、新郎様が、言葉につまり、ずっと天井を見上げていらっしゃいました。会場は新郎様の言葉を聞いて、すすり泣く声や「がんばれー!」と新郎を応援する声がたくさん入り混じりました。
気づくと、ご友人もご親族も総立ちになり、新郎新婦様を囲むように、皆さんがおふたりの元に集まりました。
俺、さっき初めて、「あ、俺、結婚するんだな」って実感して。今更だけど。
◯◯(新婦様)と付き合って4年も経つし、結婚したからって何も変わらないと思ってたけど、付き合うのと、結婚って全然違うんだなって、今、思って。
付き合ってた時は、◯◯(新婦様)しか見えてなかったけど、今日、◯◯の家族や親戚や、小さい頃から◯◯を知っているそういう人らの顔を見て、それをこれからは、俺が背負うんだ、と思って。
なんか、うまく言えないけど、俺、頑張ります。
一生、◯◯のこと、大事にします。
今日はありがとうございました。
19歳の新郎様が、一言一言考えながら、そう話す様子は、言葉では言い尽くせないような、本当に素敵で、そしてとても神聖なものでした。
“「結婚する」ということは、相手だけじゃなく、相手の家族や相手の人生を自分と共有することだ”。結婚式当日、実際にゲストの表情や当日の雰囲気を目で見て感じて、初めて結婚することの意味を理解した、という新郎様。当日感じた正直なそのままの気持ちを吐き出すように、自分の言葉でお話されているのがよくわかりました。
新郎のそんな姿を見て、ゲスト全員が、涙している中、「◯◯くん(新郎様)、気づくの遅すぎでしょ!泣きすぎでしょ!」と新婦様は大爆笑。そんな温度感もまた、二人らしかったです。
“結婚式”の意味
会場の陰から、この結婚式の様子をずっと見ていた還暦間近の支配人がボソッと言った一言がとても印象に残っています。
「19歳同士の結婚、ということに偏見を持つ方もいらっしゃるかもしれないけれど、あの二人は絶対大丈夫だ。」と。
何百組と結婚式のお手伝いをしてきましたが、あとにも先にも、椅子に座っていたゲストが全員総立ちで新郎新婦を囲む「謝辞」は見たことがありません。 “結婚”の意味を、理屈ではなく、肌で感じることができるのが「結婚式」かもしれない、と、改めて思った出来事でした。